ダンテ『新生』講義③〜隠れ蓑の女性
さて前回の記事から一年近く経ってしまったが今日はいよいよ、「新生」のある意味見どころである、「隠れ蓑の女性」をご紹介しよう。
<新生①>はこちら
<新生②>はこちら
前回のおさらい。
一目で恋に落ちてから9年、ダンテはついにベアトリーチェから会釈された…。
さて気絶するくらい幸せな心地になったダンテが、次にとった行動とは何だったのか。
出会ってから会話もなしに9年の年月が経っている時点で既に凄いのだが、そこで巡ってきた一世一代の好機に起こすアクションが、芸術の域に達している。
ダンテがベアトリーチェに熱い視線を送っていた場所は、フィレンツェのサンタ・マルゲリータ教会。しかし周囲の人々はダンテとベアトリーチェのちょうど間に座っていた女性が、ダンテの視線の先にいるものと勘違いをしたのである。
いつの時代もどこの国でも噂話というものは皆喜んでするもので、さっそく人々は
「あの人がダンテの好きな女性なんだって~」「そうなんだ~美人ね~」などと噂をし始めた。それはすぐにダンテ本人の耳にも入る。本当は絶対的心の恋人・ベアトリーチェを見つめていたダンテ、人々が誤った情報を口にしているのを耳にして驚き、そこですぐに誤解を解く…
…ようなことはしない。
ベアトリーチェへの恋心を隠すため、これは好都合とばかりにこの女性を好きだというフリをすることにしたのだ。
この偽物の恋にリアリティを持たせるために、ちまちまとこの女性にあてた詩すら詠んでしまうダンテ。こうして最強の盾を手に入れた彼は、数年の間ベアトリーチェへの清らかな恋心を隠し通すことに成功したのだった…。
これがかの有名な「隠れ蓑の女性」のエピソードである。
…しかし、平穏な日々はいつかは終わるものである。ダンテに思いもよらないピンチが訪れる。
「隠れ蓑の女性」が、遠くの町へ引っ越すことになってしまったのだった。
慌てふためくダンテ。あれだけ夢中になっていた(と思わせていた)女性が去ってしまうというのに、何も行動しなかったら周りから不審がられてしまうではないか。そしていずれはベアトリーチェへの秘められた恋が暴かれてしまうかもしれない…それだけは断固阻止せねばならない!
この危機をどう乗り越えるのか!続きはまた次回!
Henry Holiday, Dante incontra Beatrice al ponte Santa Trinita, 1883
フィレンツェのサンタ・トリニタ橋のたもとでベアトリーチェと再会するダンテ。
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