ドゥランテとダンテ

ダンテについて色々と語りたいことはあるが、まずはその名前について少し書いてみることにした。
ミケランジェロ、ラファエロ、ガリレオ、イタリアでは著名な人物はしばしば苗字ではなく名前の方が有名になったりする。(フランチェスコ、ジョヴァンニ、君らを否定しているわけではない。…試しに名前で呼んでみたが全く誰だかわからない。ペトラルカとボッカッチョである。)
さてダンテも、苗字のアリギエーリよりも名前のダンテの方が有名だ。実は、ダンテは洗礼名はDurante(ドゥランテ)と言うのだけれど、その短縮形であるDanteを好んで使い、私的な場でも公の場でもドゥランテの名前を使ったことは一切ないという。「ドゥランテ」は、「〜している間に」でお馴染みの前置詞だが、名前の場合、「永続する」という意味で使われていたらしい。今ではあまり使われていない名前で、というのもドゥランテに取ってかわり、短縮形の「ダンテ」が圧倒的に選ばれるようになったからである。さすが我らが国民的詩聖。
じゃあダンテはなぜ、短縮形を好んだのか。永続する者、って不死鳥っぽくてカッコよくないか?で、ダンテの性格だから絶対カッコイイ名前を使いたがるんじゃないか?と思ったのだが、伝記を読んでいてこんな一説に出くわした。
Danteは動詞dare(与える)の現在分詞とも考えられるから、「与える者」、の意味になる。誰に何を与えるのかと言うと、こうだ。
”神から授かった英知を、偉大な作品を通して、広く世の人々に「与える」”
お分かりいただけただろうか、このしつこさ。完全なる上から目線。そうこなくちゃ、という感じである。ちなみに中世イタリアでは、「名前がその人の運命を決める」とか、反対に「その人の生き様が、その名前の真の意味を明らかにする」と言われていて、まさに「名は体を表す状態」であった。だからこそ、もしダンテがそれを意識して「与える者」という名前を使っていたとすれば、そんな楽しいことはない。ついでに、ベアトリーチェは「恩恵を与える者」の意味だから、なんと理想的なカップルか!と思ってしまう。(別に恋人同士ではないけれど。ここがポイントである。)
今後は、ダンテの名を呼ぶときはこの「与える者」を意識してみようと思う。ダンテのキャラクターがまたひとつ濃いものに感じられるだろう。

フィレンツェのサン・ジョヴァンニ洗礼堂。ダンテはここで洗礼を受けたと言われている。

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