ダンテ『新生』講義①〜ダンテの愛(入門編)

ダンテの愛、と言うと神学が関わってきて気軽に語れなくなってしまう気がするが、それこそがこのブログをもって乗り越えたい「お堅いイメージ」なので、ここは思い切って、ライトに、でもアツく、ダンテのベアトリーチェに対する想いがどれだけ強いものであったかを「入門編」という言い訳のもとに書いてみようと思う。

「新生」(Vita Nova, またはVita Nuova)はダンテが27歳の頃に作られた抒情詩集だが、「神曲」でさえ堅苦しくて読みたくないのに、一発屋の売れる前の作品なんて勘弁願いたい…と思われた方、ちょっと待ってほしい。これはダンテに全く興味のない人もきっとこの詩人のことが好きになるであろう必読の書だ。

基本から入ろう。ベアトリーチェはダンテの最愛の女性で25歳の若さで亡くなるが、地獄、煉獄、天国のあの世を巡る旅を描いた「神曲」の天国で主人公ダンテを導く存在として描かれる事で、永遠の命を手に入れ、今も世界中の人々から愛されている(と、思う)。

前回の記事でも触れたが、「最愛の女性」であって、「恋人同士」ではない事を強調しておく。ベアトリーチェに関する史実はほとんど残っていないから、彼女の気持ちは知りようがないが、ダンテとの接触がどれだけ少なかったかを考えると、燃え上がるような熱い想いを抱えていた…というのはあまり現実的ではない気がする。純粋に作品にのみ焦点を当てるなら、現実世界のことはどうでも良いとは思うけれど。
具体的にダンテとベアトリーチェの現実世界でのコンタクトが描かれているのが、この「新生」だ。超・極めてシンプルに作品の流れを纏めると、こうなる。

1.ダンテ、9歳でベアトリーチェと出会う。9年後、彼女からはじめて会釈される。
2.ベアトリーチェへの恋心を隠すため、別の女性を好きだというフリをする。(「隠れ蓑の女性」というテクニックの発明。) このため、ダンテは移り気な男だという悪評がたち、ベアトリーチェから無視されることになる。
3.詩を通してベアトリーチェを愛することを決意する。
4.ベアトリーチェの死を予感させる夢を見て、それが現実のものとなる。
5.ベアトリーチェのことをより適切な方法で詠うことができるその時まで、彼女の事を詩に書くことはすまい、と決心し、「新生」の幕を閉じる。

すでに色々気になる点が多いことだろう。
「隠れ蓑の女性」の逸話などはたまらない。詳細はまた次回。
(つづく)

<新生②>はこちら


ロンドンのテート・ブリテンを見学。ラファエル前派の画家の作品が収集されている一室にて。ミレイのオフィーリアなん
かもあるが、目的はもちろん、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティのDantis Amor(ダンテの愛)、
そしてBeata Beatrix。この画家についてはまた語りたいと思う。

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