ダンテとの出会い2

大学入学当初、イタリア語を専攻する学生としてはイタリアについての基礎知識も身につけなくてはならないと言うことで、イタリア文化概論の授業も必須科目として用意されていた。確か歴史、言語学、そして文学の三本立てだったと思う。
ある日何気なく授業に出席したところ、その日は文学の回であった。恩師は静かに語り始めた。誤りがあると失礼なのであくまで私の記憶によると、と付け加えておくが、概要はこうだ。

詩人ダンテの作品には主要なものに「神曲」「新生」などがありますが、そこで常に重要な役割を果たしたのは、ベアトリーチェという女性でした。
ベアトリーチェは実在の人物で、ダンテと同じフィレンツェの同じ地区に住んでいた、銀行家のポルティナーリ家の娘の事だと言われています。
「恩恵を与える者」を意味するベアトリーチェは大変美しく、ダンテは9歳のとき、同い年のこの少女に一目で恋に落ちました。ベアトリーチェとの関わりは18歳の時に橋のたもとで遭遇した際に彼女から会釈を受けた、という程度(これが非常に重要な意味合いを持っているのですが)ですし、現実の世界ではダンテは別の女性と結婚していました。ですが大切なのはそんな事ではなくて、彼女の存在が、生涯に渡りダンテの詩作の源泉となったこと、そして愛する女性への愛のベクトルを、神への愛のベクトルと一致させたことです。

細かいところは私の記憶違いの可能性もあるが、とにかく、一つだけはっきり覚えているのが、この愛のベクトルという言葉。しかも、ちょっと聞いた話では片想いらしいではないか…。

すごいものが降臨してしまった。この詩人には何か、時代を超えて訴えかけてくるものがある。思い込みの激しい私は、この出会いは運命だ、と思ったのであった。

先日足を運んだBUNKAMURAの『ベルギー奇想の系譜』展で購入したポストカード。ジャン・デルヴィルの≪レテ河の水を飲むダンテ≫。神曲煉獄編第三十三歌参照。
 
 

 


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