万年筆ダンテシリーズ「プルガトリオ」

いつものように「ダンテ・アリギエーリ」でキーワード検索をかけてネットサーフィンをしていたら、イタリアの老舗万年筆メーカーのAURORA社から、ダンテの「神曲」をモチーフにした万年筆の第二弾が発表されていた。
AURORAからは既にシリーズ第一弾「DANTE INFERNO」が発売されていて、漆黒のボディに、詩人を讃える月桂樹の冠をイメージしたローズゴールドのリング、罪人たちの流す血を思わせる赤いラインが、まさにINFERNO(地獄)を彷彿とさせるクールな逸品だった。
その第二弾というからモデル名はもちろん「DANTE PURGATORIO(煉獄)」である。「神曲」はご存知主人公ダンテが地獄、煉獄、天国を旅する物語で、地獄が救われない魂たちの居場所だとすると、煉獄は救われつつある魂たちの、そして天国は救われた魂たちの居場所である。地獄が何層もの同心円でできた谷なのに対して、煉獄は逆に螺旋状の道を登っていく山登りの旅だ。魂たちはやがて天国へと昇る時を待ち、様々な苦悩に耐えている。
今回の万年筆は、どのあたりで「プルガトリオ感」を表現しているんだろうか。そう思い勝手に分析してみた。
まず目に入るのが深みのあるブルーのボディ。神曲の世界、というか中世では、地球の南半球は広大な海に覆われていて、その真ん中に煉獄の山がそびえているとされていた。ダンテとウェルギリウス大先生がそんな孤島にどうやってたどり着いたのかと言うと、泳いできたわけでもなければ、船でもない。地獄の最下層のルチーフェロ(堕天使ルシファー)のはまっている穴の隙間に抜け道があり、それが南半球への超・ショートカットになっていたのだ。
どこまでも暗く心細い地獄の旅を終え、ようやく地上に出たとき、そこでダンテを迎えるのは海と澄んだ空に包まれた「青」の世界だ。時刻は明け方、まだ空には星が煌いている。万年筆「プルガトリオ」でも、きっとこの地獄から煉獄に出たときのダンテの心境、全てを浄化してくれるような美しい海と空の青を表現しているのではないかと思う。
そして今回も月桂樹をあしらったリングが。プルガトリオでは銀色(クローム)で青と良くマッチしている。キャップの天冠には、インフェルノと同じくダンテの肖像画が描かれている。

なるほどこれは見れば見るほどプルガトリオだ…と思っていたら、非常に気になる情報を目にした。公式サイトではなく他の万年筆ショップのサイトに掲載されている情報なのだが、プルガトリオは世界で1265本の限定生産だが、さらに19本だけ、クリップ部分にサファイアをあしらったバージョンがある、というのである。…気になる。本当だろうか。実は気になりすぎてアウロラに情報提供希望のメールを書いてしまった。ついでにコレクター向けのニュースレターにも登録してしまった。

別に購入するつもりではない。そもそもサファイアなんぞ買えない。しかしなぜこんなに気になっているのかと言うと、「サファイア」という単語がまさに煉獄編第一歌に登場するからである。

Dolce color d’oriental zaffiro,
che s’accoglieva nel sereno aspetto
del mezzo, puro infino al primo giro,   

  a li occhi miei ricominciò diletto,
tosto ch’io usci’ fuor de l’aura morta
che m’avea contristati li occhi e ‘l petto.
東方のサファイア色の優美な光が、
遠い水平線まで澄み渡る
晴朗な大気中に集い、
私の目と心を苦しめた
死の空気から外に出たばかりの
両目に、再び歓びを与えてくれた。

拙訳だが、だいたいこんなことが書かれている。地獄で見て来たショッキングな数々の光景はトラウマものだったろう。そんな顔面蒼白のダンテの目に、サファイアのように青い大気の光が優しく届く…。

この「サファイア色」をイメージするためにこのバージョンを作った、のだろうか?(深読みし過ぎ?)そして1265本はダンテの生年にちなんだ数だが、19本とは?これは引き続き要調査だ。

ぜひアウロラ社のデザイナーに正解を教えてほしいところである。


参考までに「神曲」の世界のマップはこんな感じだ。画面下部にある円が地球。この絵では北半球が下、南半球が上になっている。画面中央あたりの赤い三角形が煉獄の山。下のほうに見えるのがさかさまに描かれた地獄である。細い道を伝って、南半球の煉獄へとショートカットができるようになっている。


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