ダンテ・アリギエーリ好きの視点から「デビルメイクライ」を考える②

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(…電話の音…)

薄暗い不気味なオフィス。
銀髪、長身の男が、デスクに置かれた電話の受話器を気だるげに上げる。

“…Devil may cry!…”
(流暢な英語で)


「デビルメイクライ5」のプロモーショントレーラーの冒頭シーンだ。
誤解を恐れずに言うが、爆笑してしまった。決してバカにしているのではない。カッコよすぎるのだ。これが噂のデビルメイクライの主人公、ダンテか…。予想以上のダンディーぶり。「神曲」のダンテと比べて少なめに見積もっても10倍はカッコいいではないか。

便利屋「Devil May Cry」を営み、悪魔退治を専門とする「悪魔狩人(デビルハンター)」のダンテ。赤いロングコートがトレードマークだ。かつて人間界を悪魔の手から救った、伝説の悪魔「スパーダ」の息子であり、双子の兄はバージルという。

「神曲」からどれだけのインスピレーションを受けているか分析しようと思い、情報を集めてみたのだが、早速設定がぶっ飛んでいて驚いた。「神曲」のダンテは地獄の旅をするが、別に悪魔退治をしているわけではない。地獄で罰せられる死者たちを悪魔が苦しめていたりはするが、それは罪びとたちを苛める、執行人か看守のようなものだ。旅人ダンテはそれらをただ見学して通過するのである。

しかしトレードマークの赤いロングコートというのは、本家から影響を受けているのかもしれない。
今やダンテ・アリギエーリといえば皆赤いマントを想像すると思うが、果たして当時あの格好で街を闊歩していたのかというと、そんな事はないだろう。少なくとも、フィレンツェを追放されてイタリアを放浪していた時にあの格好はないだろう。目立ちすぎる。



次に双子の兄という「バージル」について検証してみよう。

「神曲」はたとえカトリックに精通していなくとも、その地獄と煉獄の描写、魅力あふれる登場人物達のおかげでエンタメとしても楽しむ事ができる素晴らしい作品だが(あえて三部のうち天国を外したのは著者ダンテも「ついてこれない読者は読まないで結構」と言うほどハードルが高いためである…)、その地獄と煉獄の旅に欠かすことのできないキャラクターがウェルギリウス(英語名:バージル)なのだ。

ウェルギリウスは、実在した古代ローマ詩人プブリウス・ウェルギリウス・マローに憧れていた作者ダンテが、自身を主人公とする「神曲」の導師として登場させたキャラクターで、そのキャラ付けにも深い愛が感じられる。
「理性」の象徴という役割が与えられているだけあって、どんなピンチでも冷静沈着。地獄の出来事に一々怯えるダンテを時に優しく、時に厳しく導き、時にはダンテをその腕でしっかりと抱いて怪物を乗りこなしたりもする、一言で表現するなら超絶イケメンである。

ウェルギリウスが好きすぎてナポリまで墓参りに行ってしまった。
By Armando Mancini - Flickr: Parco della Grotta di PosillipoCrop of File:Parco_della_Grotta_di_Posillipo5.jpg, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=21845489


デビルメイクライのバージルも、調べてみたところかなりのクールキャラのようではないか…。銀髪のオールバックに青のロングコート、性格は冷酷で己の美学のため銃器は使用せず日本刀で戦うらしい。これだけ厨二全開で格好良いキャラクターならば、成る程「バージル」の名前も納得だ。


だが「神曲」におけるウェルギリウスとの共通点だと感じたのは、そのイケメンぶりだけではない。「デビルメイクライ」のストーリーを紹介しているサイト等を巡っているうちに、バージルがダンテとの闘いに敗れ、魔界の深淵へと自ら落ちていく、というネタバレを目にした。

「神曲」のウェルギリウスは、ダンテを導いて天国の一歩手前(地上楽園)まで連れていくものの、実は彼自身は地獄(正確には、キリスト以前を生きたために信仰を持たない賢人たちが住むリンボ「辺獄」という地区)の住人である。故に、ダンテを天国の手前まで連れて行くという使命を果たしたとき、彼は役割を終えて、そっとダンテの前から姿を消すのだ。地獄に戻る様子は作中に描かれはしないが、これは涙なしには読めない場面であり、実際、ダンテもウェルギリウスと別れて号泣している…。

バージルが最後に冥界に下っていくというのも、ひょっとすると「神曲」を意識した上での設定なのだろうか…。そんな深読み(?)の楽しさも与えてくれる「デビルメイクライ」は、スタイリッシュなだけではなく、なかなか奥の深い作品のようである。


そういえば大学時代に、北欧神話やギリシャ神話なんかが現代のアニメやゲームの題材として取り上げられて独自の進化を遂げることを「神話のハイパー化」として研究されている先生がいた。デビルメイクライも、まさにそんなハイパー化の一つだろう。
ハイパー化の題材として選ばれるには、それだけ世界的にも文学的にも不動の地位を築いていなければならないし、そしてそこにはおしなべて厨二のエッセンスがあるのが特徴だろう。

このように世界的にヒットしている誰もが耳にした事のあるゲームに多大なインスピレーションを与えている「神曲」。この事を私は純粋に嬉しく思う。

デビルメイクライのプレーヤーの皆さんにも、いや、デビルメイクライの世界に惹かれる皆さんにこそ、「神曲」を読んでほしい。ゲームをプレイする際に楽しさが倍増する事間違いなしだ。
そして地獄の悪魔や死者達との邂逅に胸を躍らせ、共にこう叫ぼうではないか。

“I'm absolutely crazy about it!”




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