ダンテ『新生』講義②〜ベアトリーチェの会釈

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突然だが、最近「美しすぎる○○」という表現が容姿端麗な女性を言い表す表現として多用されていたり、好きなアイドルを「天使」と呼んだりするのを耳にするが、全く愛に重みが感じられない。私はこれらに取って代わる表現として、「ベアトリーチェ」を提案したいと思う。

前回ごく簡単に紹介した「新生」の冒頭、
1.ダンテ、9歳でベアトリーチェと出会う。9年後、彼女からはじめて会釈される。

を例に語ろう。
「新生」によると…

ダンテがベアトリーチェに出会ったのは、二人が9歳の時。いや、出会ったと言うと多分語弊がある。ダンテがベアトリーチェを目にした、と言っておこう。
赤いドレスに身を包んだこの世の者とは思えない美少女、ベアトリーチェを見たとき、ダンテは全身のあらゆる感覚が麻痺してしまうくらいにめちゃくちゃ動揺する。どれほどかと言うと、「栄養の霊」が泣きながら活動停止宣言をしたり、「生命の霊」がガタガタと震えたりする。ようは、ベアトリーチェに心奪われて全く食べ物が喉を通らなくなり、生命の危機にさらされる程になってしまったのだ。そうして使い物にならなくなったダンテの身体を、ある新キャラクターが操るようになる。そう、皆さんもご存知「amore」だ。
ダンテは、この擬人化された「愛」から何度もベアトリーチェの姿を見に行くように命じられる。ということで、決して自らの意思でベアトリーチェに会いに行っているわけではないのだ。自分ではどうにもコントロールできない強大なエネルギーに衝き動かされて、仕方なく、あくまでも仕方なくストーキングをしているのだ。
友達を訪ねるふりをして気になる彼女のクラスに出入りしている男子中学生の諸君も、ぜひこの言い訳を使ってみてほしい。

そうこうしているうちに…九年(!)が経った。
幼い頃の初恋は、いつしか記憶の片隅に追いやられていた…とはならないのが我らがダンテである。
ダンテはまだベアトリーチェに声をかけられず、彼女を遠くから見つめては、うっとりとしていた。

しかしついに、そんな彼にも奇跡が起こる。
ベアトリーチェが、何と、ダンテに向かって会釈をしたのである!!

天にも昇る気持ちになったダンテはおぼつかない足取りで家まで帰ると眠気に襲われてしまう。※


…と、ここまでが「新生」の冒頭だ。この後もダンテは我々にはついていけないような恋愛理論を展開してくれるが、一旦今日はここで区切ろうと思う。
ベアトリーチェがダンテにとってどれだけの深い意味と破壊力を持っていたか、少しでも紹介できていれば嬉しい。
一目惚れをした彼女と一言も話したことがない、けれど毎日後をつけているという皆さん、9年ほど経ったら勇気を出して、「君は僕のベアトリーチェだ」と声をかけてみよう。
きっとあなたの思いは通じるはずだ。

※ダンテが眠気に襲われる描写は、「神曲」でも良く見かける。何でそこで眠気?と思われるかもしれないが、これはおそらく、感情が高ぶると全身の力が抜けて眠ってしまうという「ナルコレプシー」の症状だったのではないか、という研究がされているらしい。「気絶するダンテ」についてもまたいつか語ってみたい。

ダンテ・ゲイブリエル・ロッセッティの「Beata Beatrix」。

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